ここで少し視点を変えて、債務超過企業の売買に関して取り上げましょう。

【質問】

債務超過企業の売買が流行しているのですか?(前半)

 

【回答】

企業が債務超過に陥り、万策尽きて再建をあきらめざるを得ない場合もあります。

その場合は休業や清算という方法で会社をたたむわけですが、その会社を売却するという選択肢もあります。

その債務超過企業売買が、密かに流行したことは確かです。

なぜ、そんな企業が売れるのでしょうか?

これは、「青色欠損金の繰越し」という、法人税法の制度に関係があります。

債務超過企業は過去の赤字が積み重なった状態でしたね。

法人税の計算においても、こんな仕組みがあります。

「たとえ今期が黒字でも、過去数年間の赤字が残っていれば、税金はその黒字と赤字を相殺して計算する。」

 

これが青色欠損金の繰越制度です。

大手銀行が、2000年代の不良債権処理のおかげで、その後長年税金を免れていたニュースをご記憶ではないでしょうか。

あれも、この制度のおかげなのです。

 

現在の日本では法人が出した利益にかかる税金はおおよそ40%程度です。

1億円の利益を出せば4千万円は税金に持っていかれることになります。

ところが去年が1億円の赤字、今年が1億円の黒字ならその2年分を相殺して利益は0円、

税金も0円ということです。

 

それではここに、毎年確実に1億円の利益を出すA社があり、もう一方に、過去の赤字1億円が残っている債務超過企業B社があるとしましょう。

A社にすればB社を買収し、1年間B社の名義で商売をすればそれだけで4千万円の節税が実現できます。

このような理由から、一部の経営コンサルタントが債務超過企業の売買斡旋を積極的に行っていたようです。

売買相場は、一説では利用できる赤字額(欠損金額)の10%程度(上記の例で言えば1千万円)と言われています。

債務超過企業の株式は本来紙くず、つまり0円ですから、この取引は売る側も買う側もそれなりのメリットがあるものでした。

しかし、このような債務超過企業の売買を苦々しく見つめていた人々がいます。

国税当局です。

 

【質問】

債務超過企業の売買が流行しているのですか?(後半)

 

【回答】

本来、企業売買(M&A)は、競争力の強化や技術の継承等、その事業をより一層成長させるべきものです。

国税当局は、節税だけを目的とした債務超過企業の売買は規制すべきと考えました。

 

そこで平成18年度税制改正で、このような売買を防ぐための規定を設けたのです。

もちろん、債務超過企業の売買そのものを禁じたわけではありません。

 

その代わり、法人税法に以下のような規定を設けました。

「債務超過企業の売買を行い、かつ一定の条件に該当すれば、その債務超過企業の繰越欠損金は使用不可とする」

 

前述したように、債務超過企業の買い手は、その企業の繰越欠損金を利用した節税を最大の目的としています。

従ってこのような規制を作れば、自然に債務超過企業の売買ブームは収束すると考えたのです。

 

実際、この税制改正の後、債務超過企業の売買はその件数を大きく減らしたと言われています。

債務超過企業で今後も売買の対象になるのは、高い技術力や有力な販路など、企業としての本質的な価値を有する社に限られるのではないでしょうか。