債務超過になると融資を受けられない。
債務超過だけは回避しなければならない。
債務超過についてそんなコメントを良く聞きます。
しかしそれは、大いに誤解を招く表現です。
まず債務超過とは何かを正しく理解して、融資を受ける立場から、対応を考えていきましょう。
【質問】
債務超過とは何ですか?
【回答】
新聞や雑誌では債務超過について
「資本の部がマイナスの状態」 あるいは 「資産を全て処分しても負債を返しきれない状態」
と書いてあります。
その通りですが、簿記の知識を持たない方にはイメージしにくいですね。
もう少し簡単な説明を試みましょう。
会社を作るとき、最初に元手として、株主が資本金と呼ばれるお金を出すことはご存知でしょうか。
債務超過とは「毎年の赤字と黒字を累計して、その赤字が資本金より多くなった状態」と言えるでしょう。
例えば
Aさんは1000万円の資本金を出してB社を設立しました。
B社の第1期目から第4期目までの業績は以下の通りです。
第1期目 600万円の赤字 (累計600万円の赤字)
第2期目 300万円の赤字 (累計900万円の赤字)
第3期目 200万円の黒字 (累計700万円の赤字)
第4期目 500万円の赤字 (累計1200万円の赤字)
第4期目を終わった時点でB社の赤字累計額は1200万円、資本金である1000万円よりも多くなっていますね。
このような状態を債務超過と言うのです。
この例では
「200万円の債務超過になっている」
「債務超過幅は200万円だ」
そんなふうに言うこともできます。
毎年の赤字と黒字の累計額について、それが赤字の場合には繰越損失、黒字の場合には繰越利益といいます。
債務超過とはつまり、「繰越損失が資本金よりも多くなった状態」 です。
なおこの言葉は、証券取引所の上場廃止基準がもともとの出所になります。
「債務超過の状態となった場合において、1年以内に債務超過の状態でなくならなかったとき」
ところで、債務超過の状態をよく「オーバーローン」とも言います。
但しこれはいわゆる日本語英語で、正しくはExcessive debt またはInsolvencyが正しい英語表現のようです。
【質問】
統計上、全企業に占める債務超過企業の割合はどれくらいですか?
【回答】
国税庁が発表する日本の法人数は、近年では250~260万社程度です。
それではそのうち債務超過の法人はどれくらいあるのでしょうか?
債務超過企業の割合を調べた公的な調査は見当たりません。
いくつかの民間資料から推計すると、債務超過企業の割合は10%台半ばではないかと考えられます。
だいたい7社に1社、全国で40万社前後ですから、債務超過はそれほど珍しい状態ではないと言えます。
この割合は業種によって異なり、小売業・不動産業などは債務超過企業の割合が平均より高まるようです。
【質問】
債務超過では融資を受けることができないのですか。
【回答】
「債務超過になると新たな融資は受けられない」と言われます。
本当にそうでしょうか?
まず、創業期の会社は債務超過である、債務超過でない、そのことに神経質になる必要はありません。
ほとんどの会社は、資本金数百万円でスタートして、しかも最初の数年間は赤字が続きます。
そうすると、債務超過に陥ることは珍しくないわけです。
実際のところ、日本政策金融公庫(国金)や各都道府県の保証協会等、公的な機関が債務超過だけを理由として、融資を(あるいは保証を)否決することはほとんどありません。
これらの機関は創業段階の事業者を育成することも大きな使命です。
売上が順調に伸びており、将来的な黒字転換が望めるようなら、たとえ今債務超過であっても、創業融資を受けることは決して難しくないのです。
一方で、業歴10年を超えるような会社が大幅な債務超過であれば、融資の難易度はあがります。
金融機関はなぜ債務超過の会社に冷たいのでしょうか。
既に見てきた通り、債務超過の会社は基本的に赤字基調、もうけの出にくい会社であると言えるでしょう。
さらに、債務超過に陥った会社はほとんどの場合、資金繰りも火の車です。
金融機関の姿勢が厳しくなるのはやむを得ないかもしれません。
昔話になりますが、不況もどん底の1998年秋頃、政府は中小企業を救済するため、「金融安定化保証」と銘打って各地の信用保証協会にどんどん保証を付けさせました。
当時、金融業界におられた方はよくご記憶でしょう。
この制度は、貸し渋りや貸し剥がしから中小企業を救うためとは言え、事実上無審査に近いような制度で、陰では「信用保証のバーゲンセール」と揶揄されたほどでした。
ところがこの制度でさえ、債務超過の法人は原則として保証の対象外とされていました。
債務超過の会社が厳しい目で見られることはやはり否定できません。
【質問】
どうすれば債務超過でも融資を受けられますか。
【回答】
債務超過が厳しい目で見られることは確かですが、融資の可能性がゼロになるわけではありません。
債務超過でも融資されるケースをいくつか見ていきましょう。
一、創業期の会社である場合
前述しましたが、創業期の会社にとって債務超過はよくあることで、それだけを理由として融資を否決しては、この国で中小企業は育ちません。
従って日本政策金融公庫(国金)は債務超過でも、事業そのものがしっかりしていれば創業融資を出してくれます。
民間の金融機関も、保証協会の保証が条件になりますが、融資には応じてくれるでしょう。
二、資産背景がある場合
「資産背景がある」とは、担保もしくはそれに準ずる資産があるという意味です。
会社自体が有力な不動産を保有している場合はもちろん、代表者やその家族が、個人名義で金融資産や不動産を持っている場合も「資産背景あり」です。
債務超過の会社でも、このような資産背景があれば、金融機関はその資産から返済を受けられる可能性があります。
但し、近年では金融機関も担保重視の姿勢をあらためつつあります。
いくら資産背景があっても、事業そのものが全く見込みのない状態なら、やはり新規融資は困難でしょう。
三、債務超過の解消等が期待できる場合
以前は赤字続きで債務超過に転落したが、最近は盛り返している、そんな場合は金融機関の見方も変わってきます。
少なくとも直近期、できれば直近2期は黒字にしたいものです。
直近期が増収増益であれば尚良しでしょう。
2008年以降の不況で赤字が続き、債務超過に転落した。
しかしその後厳しいリストラに取り組み、新しい販路を開拓して蘇りつつある会社...
金融機関はそんな会社に結構好意的です。
「会社を蘇らせたのは俺だ」という自信をもって、堂々と融資を申し込んで下さい。