日本の金融機関は長い間、担保を重視してきました。

その結果、担保がなければ融資は受けられない、そんなイメージが定着しています。

そのイメージはある意味で正しく、ある意味では間違いと言えます。

例えば、政府系の金融機関である日本政策金融公庫(国金)は、創業融資をはじめとして無担保融資に積極的に取り組んでいます。

近年では民間金融機関も(金融庁の指導もあって)、創業期の企業に対して無担保融資を行うケースが増えてきました。

 

もっとも無担保融資では、多くの場合、融資額が小粒になることは否めません。

数千万円から数億円規模の融資を受ける場合は、やはり担保の提供が必要になります。

提供できる担保がある場合でも、まず経営者自身が担保というものを正しく理解しておくことが重要です。

そこでこの記事では、担保について横断的に解説を行います。

 

【疑問】

そもそも担保とは何でしょうか。

 

【回答】

融資を受けるときに借り手が貸し手に対して、「もし融資を返せなくなったらこれを処分して返済に充てて下さい」と差し出すもの、これが担保です。

例えば住宅ローンを組むとき、借り手は購入する住宅そのものを担保として差し出しますね。
もし住宅ローンが返せなくなったら金融機関はその住宅を売却してローンを回収するのです。

「差し出すもの」と書きましたが、「物」を担保とする場合は物的担保、「者」を担保とする場合は人的担保と言います。

 

人的担保は、この呼び方よりも「保証人」という呼び方でご存知かと思います。

土地や家などの不動産を担保にすることも、誰かに保証人になってもらうことも、広い意味ではどちらも担保なのです。

ただ一般的に、担保という言葉は狭い意味、つまり物的担保をイメージされる方が多いと思いますので、この記事でも主に物的担保について解説します。

 

【疑問】

担保がなければ融資は受けられませんか。

 

【回答】

「銀行から融資を受けるためには絶対に担保が必要」

「うちの会社には土地も建物もないから、融資なんて絶対無理」

そう思っておられる方は少なくありませんが、それは大きな勘違いです。

 

上述の通り、日本政策金融公庫(国金)は無担保融資がその融資の大半を占めます。

民間金融機関でも、中小企業が数百万~数千万の借入を行う場合、物的担保を要求されることはむしろ少ないと言えます。

但しその代わりに、信用保証協会の利用を勧められます。

保証協会の保証が担保の代わりというわけですね。
(信用保証協会については、あらためて別の記事で解説いたします)。

さらに近年では、地方銀行や信用金庫はビジネスローンという方式で、無担保・無保証の融資に取り組んでいます。

 

【疑問】

担保主義とは何でしょうか。

 

【回答】

「銀行は企業の成長力、可能性を見極めて融資を行うべきなのに、実際には担保の有無で融資の可否を決めている」

こんな論調の記事が、定期的に新聞や雑誌で見られます。

 

担保があれば将来性のない企業にも融資を行い、担保がなければ将来性があっても融資しない、これが担保主義・担保至上主義です。

戦後長い間、日本の金融機関は担保主義に偏っていたと言われます。

しかしバブル経済の崩壊に伴い、担保主義すら空洞化していたことが白日の下に曝け出されました。

不動産の価格を何の根拠もなく数倍~数十倍に評価し、それを担保として過剰融資を行っていたのはご存知の通りです。

その反省も踏まえ、金融機関は担保主義からの脱却を図っています。

しかしその道のりはまだまだ遠いようです。

 

【疑問】

物的担保にはどのようなものがありますか。

 

【回答】

「不動産のほか、有価証券や定期預金が担保になります。」

 

それでは実際にどのようなものが担保として利用できるのでしょうか。

代表選手は言うまでもなく不動産、つまり土地と建物です。

中小企業が融資で担保を提供する場合、その大半が不動産になります。

 

取扱い件数は少ないのですが、有価証券も担保になります。

もっとも、担保にできるのは上場企業の株式・社債、あとは国債くらいです。

それ以外の有価証券、例えば非上場企業の株式は株価を正確に算定することが困難で、売買も事実上不可能ですから、金融機関も換金性がないとみるからです。

担保としての掛け目は、国債で90%くらいでしょう。
上場株式は金融機関によって異なりますが、株価の70%程度が目安ではないでしょうか。

 

担保のなかでも少し変り種が預金担保、略して「よたん」です。

これは文字通り、法人名義や代表者個人名義の定期預金を担保にして融資をするもので、これを預担貸し(よたんがし)と呼びます。

総合口座通帳をご存知でしょうか。
普通預金口座のうしろに定期預金がセットされていて、定期預金を預けていれば、普通預金に残高がなくても定期預金金額の90%まで引き出し(=借り入れ)ができるものです。

よたんがしは総合口座の法人版と言えるかもしれません。
(法人は規約上、総合口座そのものは作ることができない)。

ところで、預担貸しは銀行員にとって激しく好悪の分かれる制度です。
銀行員には法人向けの預担貸しを邪道として嫌う人がいました。

考えてみれば、定期預金があるならわざわざそれを担保にしなくても、その定期預金を解約して使ってしまえばいいわけです。

ところが銀行にすれば、定期預金を解約されれば預金も融資も残高ゼロ、いっぽう預担貸しにすれば預金も融資も残高あり、すなわち業績が稼げることになります。

会社が定期預金を解約しようとしたら、銀行の営業担当者が頼み込んで預担貸しを利用してもらうことも多いのです。
ノルマに追いまくられる営業担当者の立場からすればやむを得ないことでしょうが・・・

さすがにこのような制度は問題視されて規制の対象となり、今では企業に対する預担貸しはほとんど見られなくなりました。